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『築地ワンダーランド』を観た僕の不安を取り除いてくれたのは監督の言葉だった

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2016年10月15日より全国公開となる映画『築地ワンダーランド』を、ひと足早く完成披露試写会で観させていただきました。10月1日には東劇にて先行上映が始まったこの機会に、感想をお届けしたいと思うのですが、やっぱりこの作品はどうしても頭の中から豊洲への移転を意識しながら観てしまう自分がいました。

1日42,000人の巨大市場のリアルを撮った作品

作品そのものは移転をテーマにしたものではなく、完全な築地市場のドキュメンタリー作品です。築地で働く仲卸業者の熱い想いや、買い付けに来る料理人さんから見た築地の存在、それを消費者に届ける魚屋さん、四季折々の築地の顔、競りの様子など、今ある築地市場が80年の間に築いてきた文化を我々は初めて映像で知ることができます。

そう、初めてなのです。撮影規制の厳しい築地市場のなかに1年4ヶ月の歳月をかけてカメラが入りました。14,000人が働き、28,000人が訪れる(つまり1日に合計42,000人がそこにいる)この巨大市場で、取引の邪魔にならないよう慎重に撮影を行ったスタッフたちは気が気じゃなかったと思います。

そんな状況下で今までカメラが一切入ることができなかった場所も撮影。実際に取引の会話をしているところ、競りの始まる前の緊張感が漂う現場、年末の一本締めなど、一般人にとってなかなか見ることができない貴重な映像です。場内の空気感が伝わるステディカムを使ったなめらかな映像や東京湾上空からの空撮映像の美しさにも息を飲みます。

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邦画では撮影から公開まで1年ほどの作品が多いなか、『築地ワンダーランド』の撮影は2014年1月の初競りから始まり、2014年3月から本格撮影を開始。2015年6月にはひと通りの撮影を終えたものの、さらに2015年10月・11月にも追加撮影を実施しています。撮影時間は600時間にもおよび、編集にも多くの時間を割いたんだとか。そこまでして築地の文化やここで働く人達の息づかいを伝えようとする遠藤尚太郎監督のこだわりが感じられます。

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市場は生きていて、働く人や買い付けに来る人、そういった人々によって常に文化が形成されていく。監督の一番言いたいのはこれに集約されます。人にフォーカスを当てて撮った作品がこの『築地ワンダーランド』です。

築地の人々が築いてきた文化が素晴らしすぎて、不安を感じた

しかしながら、
「この文化をそのまま豊洲へ受け継ぐことが可能なのだろうか」

と、思いながら作品を観ていた人も少なくないはずです。僕がそうでした。

「築地より毎朝仕入れています」「築地で買いたい」「世界の築地」。ちょっとしたお店に行けば必ずと行っていいほど築地の表記を目にします。「築地」という言葉は物理的な市場ではなく、文化そのものを表していると言っても過言ではありません。この作品を観ればわかりますが、インタビューに応じた150人の皆さんは築地という場所に惚れているわけではなく、築地という人の生んだ文化に惚れているんです。築地市場は人の心の中にあります。

今の築地市場は江戸時代に日本橋にあった市場が関東大震災で焼失し、移転してできた市場です。1935年に開場してから80年以上をかけて人々が築いてきた文化なんですね。

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遠藤尚太郎監督が撮った『築地ワンダーランド』はあまりにも凄くて、美しくて、そして人々が素晴らしくて。上映前の舞台挨拶で服部栄養専門学校の服部先生が「20回くらい泣きました」と言ってたのは大袈裟だと思っていたのですが、僕も本当にじーんと来たんですよ。

豊洲に住んでいる僕としては豊洲に新しく市場ができることは大賛成で、日々ワクワクしながら移転予定日とされていた11月7日が来るのを待っていました。しかし、鑑賞後、この文化は豊洲でも生き続けられるのかと不安になりました。この文化をなくしちゃいけない。移転延期が決まり、本当はこれで良かったのではないか、と。

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「常に時代のニーズによって市場は変わっています」

そんなとき、ふと先日の取材を思い出しました。9月、遠藤監督は“料理人の卵”である服部栄養専門学校の学生を前にこんなことを言っていたんですね。

ひと口に築地って言っても、戦後からバブル崩壊からずっと変わってきた。常に時代のニーズによって市場は変わっています。食文化を育み、未来に伝えていく最前線に立たれる皆さんが市場を作っていくニーズを発信してるということを忘れないでほしいです

1年4ヶ月かけて築地の人々に密着した遠藤監督の口から出てきたこの言葉を思い出し、築地市場がなくなるからといって何も心配することはないんだと確信しました。市場は時代のニーズで変化し、それがその市場の文化になるのだと。

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僕たちのような一般市民が“築地市場の本当の姿”を目にすることができるのは、築地市場の奥の奥まで入った映像と150人ものインタビューを約2時間にまとめた『築地ワンダーランド』しかありません。80年の歴史のなかで、今の“築地市場”は最初からあったわけではなく、その時代のニーズにあった形に変化を遂げてきました。料理人は消費者を喜ばせるために料理を作り、築地の仲卸はその料理人のニーズを把握してピッタリな魚を提供するのが仕事です。

市場はいつか豊洲に移り、築地市場は解体されるでしょう。それでも、人と人のつながりは変わることはありません。築地の文化は決して消えないのです。そして、いつの日か豊洲は築地と同じ、またはそれを上回る世界一の市場、世界で唯一の市場になると信じています。『築地ワンダーランド』は築地の素晴らしい姿を残すドキュメンタリー映画でありながら、将来のモノサシとなる作品なのです。ぜひ、多くの人に観てもらいたいし、知っておいてほしい作品だと思います。何度も言いますが本当に素晴らしい作品です。

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先行上映・トークイベント情報

先行上映が10月1日からスタートしている東劇(築地)では以下の日程でトークイベント込みの上映が実施されます。制作スタッフやインタビューで登場した方々、料理関係者などが登壇する予定です。いずれも通常の映画料金で参加可能ですので、お時間がある人はぜひトークイベントのある回を観てみてください。東劇のスクリーンはあまり大きくなく、それでいて奥行きがある席になっているので前方の席がオススメです。全国公開は10月15日(土)です!

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