区役所とか町内会とかが発行している広報紙ってありますよね。あれ、読んでますか?家のポストに定期的に入っているけど、ほとんどの人がポイッとそのままゴミ箱へ捨てているんじゃないでしょうか。
東京・江東区の区報はわりと読みやすい方で、僕はそれほど悪くないと思っているのですが、それでもマンション下のゴミ箱にはドサッとたくさんの区報が読まれずに捨てられているのをよく見かけます。
こういう広報紙には住んでいる街の新しい条例や公共施設の利用情報、大きなイベントなど、重要なお知らせがたっぷり。それなのに一番の当事者である住民に読まないのは住民側の興味が薄いということが言えます。
(江東区の「こうとう区報」)
つまらない、読んでもらえない自治体の広報紙
役所のみなさんはきっと、今よりももっとたくさんの人に区報を読んでもらえたら嬉しいですよね。
でも、一番重要なのは広報紙を読んでもらうかではなく、どうしたら今よりもたくさんの人に街の情報を知ってもらえるかです。住民だけじゃなく、区外の人へも情報を伝えられたら万々歳。さらに、区への転入者が増えて住民が増加し、おまけに広報の予算削減にも成功!
・・・なんていうのは夢のまた夢と思っていませんか?
夢じゃありません。実はそんなサクセスストーリーが埼玉県三芳(みよし)町にあるんです。
公務員がひとりでファッション誌のような明るい広報誌を作ったところそれが狙い通りとなり、若い人にも読まれるようになりました。自分の住んでいる街の魅力に気づいた人が増え、市からの転出者が減って住民は増加傾向にあります。さらに、それまで外注していたデザイン費など無駄な費用の削減もでき、たった半分の費用で広報誌を発行できるようになったというのです。
三芳町で佐久間さんが手掛けた広報改革
そんな素晴らしいお話をしてくださったのは2017年9月3日に開催した「地域ブロガー会」のゲストとして登壇いただいた、埼玉県三芳町のスーパー公務員と言うべき秘書広報室・秘書広報担当の佐久間智之さん!
日頃からテレビの出演や講演会などで広報のノウハウを教えているので、佐久間さんのことをご存知の方も多いのではないでしょうか。
三芳町の広報誌「広報MIYOSHI」の制作を行っている公務員さんです。広報MIYOSHIはWeb(カタポケ)でも読むことができます。
佐久間さんが三芳町の広報になってから実行したポイントは以下のようなものでした。
- 広報誌の読者層を増やすため、ターゲットを既存読者であるお年寄りではなく若者にした
- デザインもカメラもすべて独学で勉強した
- 表紙やタイトルを雑誌のようにし、写真やARなどを使って若い人に読んでもらえるようにした
- 三芳町にゆかりのある元モー娘。の吉澤ひとみさんに観光大使になってもらった
- 埼玉県出身のJuice=Juice 金澤朋子さんにも広報大使アシスタントになってもらった
- 自らが行動し、職場や住民、企業など周りを仲間に変えていった
「読まれない広報誌、愛のない広報誌は税金の無駄」
広報誌は住民のために発行しているはず。ですが、配布されること自体が迷惑とか読む価値ないなどと住民に思われてしまったらそれは無駄なチラシと同じなんです。せっかく作っても税金の無駄使いとなってしまいます。
若者がぜんぜん広報誌を読んでいないことに着目し、読者ターゲットを若者に絞ることにしました。紙媒体に抵抗のないお年寄りは読者から離れないだろうとし、まずは読者の母数を増やすために若者に好まれるデザインや内容に変えていきました。
これまでのダサいデザインから大きく変更。笑顔で写っている住民の写真や明るい大きな写真が多数掲載しているのが特長のひとつです。
撮影機材には200万円くらいかけているんだとか。趣味や仕事でカメラをやっている人はわかると思いますが、カメラ本体やレンズ、ライトなど、撮影機材って本当にお金がかかりますよね。なんと、それをすべて自前で用意し、身の周りにある材料をつかって即席の撮影スタジオを作り、そこで撮影しています。
現在はメインスタッフが3人いる体制も、最初はたったひとりで撮影や広報誌の作成もやっていたそうです。Adobe InDesignもPhotoshopも独学で学び、外注をやめてご自身で誌面を作っているんです。
アイディアや行動力もすごいし、何よりも広報の力で三芳町を良い方向へ持っていきたいという愛がすごい。
「やらない後悔よりやって後悔」
最初は役所の中から反対意見も多かったそうです。きっと、決まった仕事だけを淡々とこなすために公務員になった人もいるはず(全員ではないでしょうが)。どうして公務員がわざわざそんなことをやらなきゃいけないのか、といった意見もあったことでしょう。
驚いたのが、三芳町出身で元モーニング娘。の吉澤ひとみさんに無償で観光大使になってもらったのも佐久間さんのアイディアだということ。絶対に無理だ、という意見が多かった中、企画書を持って事務所にお願いしに行ったんだとか。そうしたら快諾で、逆にビックリしたと。
さらに、埼玉県出身でJuice=Juiceの金澤朋子さんにも無償で広報大使アシスタントとして全面協力してもらうことに成功。
ダメ元でもやってみる。それが成功したら儲けものだ、というポジティブな気持ちが大事なんですね。その結果、県外のファンがわざわざ三芳町を訪れるようになったんだとか!
佐久間さんの熱意や行動力は町役場のみんなに伝わり、今では全職員が原稿をチェックするほどの体制に。そのおかげで各部署の情報を正確に誌面へ反映できるというメリットも生まれました。企業にもその勢いが伝わり、印刷業者が町のため・ファンのために広報誌をおまけして多めに刷ってくれるようにも。
ダサいデザインでコストばかりかかって全然読まれなかった広報誌は、こういった努力の末、フルカラーでたくさんの人に読まれる素敵な広報誌になったのです。おまけにコストは半分。凄すぎます。
「人々の顔が載った写真を使う」
ブログをやってて思うんですが、僕は写真に写ってしまった人に対してなんでもかんでもモザイクやボカシを入れるっていうのはすごく行き過ぎた個人情報保護志向にあると思っていて、どんなに楽しそうな現場の写真でも顔にモザイクが付いているだけで全然楽しそうに見えないし、まるでその人が悪いことをしているかのような印象すら感じることがあります。一言断って撮影できればいいのですが、そうじゃない場合の方が多い。
しかし、それを解決するのが、自ら「広報誌に写りたい!」と言ってきてくれるファンを獲得すること。その媒体に出演したい住民を増やすことなんです。
自分の“好き”をめっちゃ表に出して語ってくる友達って絶対にいるじゃないですか。アイドルの◯◯が好き、猫が好き、ビールが好き、とか。それと同じように、三芳町が好きで広報誌に写りたい!っていう人が現れれば、写真を撮っても文句言われないわけですよ。
それを佐久間さんは“I love MIYOSHI スナップ撮影会”と称して無料の撮影会を行い、たくさんの被写体(ファン)を獲得しました。撮影時には「I love MIYOSHI」と書かれたお手製の看板を手に持ってもらい、見た目からも三芳好きが伝わるように一工夫。こういった細かい点に気づき、実行するのが本当に素晴らしいと思います。
撮影に応じたファンは広報誌に載ったことを喜ぶし、それを家族や友人に伝えて、より三芳町の魅力が広まります。
三芳町では住民自らが三芳町の良さを発信することに成功したんです。
地元愛を行動を見せ、周りに味方を増やしていく
シェア!リツイート!拡散!なんていうキーワードだけを並べて地域プロモーションをコンサルしている業者が多いと聞きます。交付金とか余った予算とかを狙って自治体に接触してくるんですよね。
昔は、ホームページを作りましょう。ブログを開設しましょう。Twitter・Facebookをやりましょう。今だとInstagramやYouTubeでしょうか。自治体が新しいことにチャレンジするのは非常に良いと思うし、やらなきゃいけないと思います。
でも、結局はどれも“見てくれる人”のことを考えてやり続けなければいけません。始めるのは簡単。続けるのが難しい。アカウントを開設して、運営を外部の業者に業務委託しただけではきっと地元愛は伝わらないでしょう。もちろん、江東区の「ことみせ」のように親身になって発信している外部業者もあります。伝えるべき人がきちんとやり、それが本当に人のためになっているのかチェックして改善していく。
三芳町は以前のままだともしかしたら寂しい街になっていたかもしれません。三芳町のために、住民のために、熱い気持ちを持って取材から編集、さまざまなメディアへの出演までもこなしている佐久間さん。この街は彼の努力によって救われたと言っても過言ではないでしょう。
もし、地域を盛り上げたいと心から思っている自治体関係者さんがいましたら、ぜひ埼玉県三芳町にいる佐久間智之さんの活動を一度その目で見てみると良いと思います。そして、「こんなこと自分ができるわけない」なんて思わずに、まずは手のつけられる身近なところから改善していってください。
と、地域ブログの話というよりも公務員の可能性みたいな内容レポートになりましたが、こんなサクセスストーリーがあるのだということを知ってもらいたくて書きました。このレポート記事が少しでも誰かの役に立って大きい意味で地域活性化につながったらいいな~。