北海道・知床(しれとこ)は「地の果て」という意味を持つ地名で、ここでの希少な動物・植物、流氷がもたらす生態系の保護などが評価され、2005年に日本で3番めに知床岬をはじめとする知床半島の広いエリアがユネスコ世界遺産の世界自然遺産に指定されました。
観光地として注目されている知床ですが実はあまりよく知られていない現状があります。
それは人が簡単に立ち入ることができない問題とゴミ問題の2つです。
世界自然遺産の知床岬に行く2つの方法
知床半島そのものには羅臼町(らうすちょう)や斜里町といった街が普通にありまして、世界遺産エリアの「羅臼岳(らうすだけ)」や国後島をながめられる「知床岬」、遊歩道が整備されていて大自然のなかでエゾシカやエゾリスを見ることができる「知床五湖」など見どころがたくさんあります。
実際に僕は羅臼町に6日間滞在し、この周辺でキタキツネや天然記念物のオジロワシに出会うことができました。羅臼町は温泉もあるし、日本一高級な羅臼昆布をはじめ、ウニやカニ、ホッケなど魚介類が非常においしい良いところなので、ぜひ行ってみてくださいね♪羅臼町へは「根室中標津空港」から車で約1時間15分です。
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しかしながら、そのなかで行くことが難しいのは知床岬をはじめとする世界遺産エリアの沿岸部です。
レンタカーを借りてフラッと行くようなことはまずできません。一般の人は山間部の世界自然遺産しか足を踏み入れることができないわけです。じゃあ、知床岬へはどう行ったらいいのか。次の2つの方法で行くことができます。
【知床岬へ行くには】
一つ目は、2日・3日かけて徒歩で行く方法。陸路では道がなく、自動車は使えません。断崖絶壁を含む険しい地形をひたすら歩いて行きます。羅臼町では子どもたちがキャンプしながら徒歩で知床の世界自然遺産を学ぶイベントが実際されているんだとか。それでも、ヒグマに遭遇する危険性もありますし、なかなか一般の観光客が徒歩で行くのはオススメできません。
二つ目は船で海から行く方法です。ただ、驚くことに、エンジンなど動力装置のついた一般的な船を利用しての上陸が禁止されています。カヌーでこいで行けというのです。こういった背景があり、観光客はもちろん地元の人でも知床岬へ行くのはかなり大変。荒波の海域をカヌーで行くなんて、無理と言っていいでしょう。
つまり、知床岬に行くのはほとんど無理に等しいのです。
ゴミ問題と間違った保護政策
そんな無理難題を押しつけているのが環境省や林野庁など。世界自然遺産ですよ?環境を保護するのは賛成だけど、じゃあ、誰も入れずに野放しのままでいいのか?っていうのが次の問題です。
知床半島の先端、知床岬周辺にはたくさんのゴミが漂着しています。日本一の高値で取引されている高級な羅臼昆布(らうすこんぶ)が昔はここで陸上げされ、その出荷作業のために人が住んでいましたが、今や誰も住んでいないのにもかかわらずゴミがいっぱい。国内の他の地域や外国から流れ着いたゴミがここに溜まっているんです。
行政がきちんとした実態把握もせずに立ち入り禁止を継続しているため、ボランティアがゴミを拾うことすらできないんです。
- 自然環境を守りたいから人の立ち入りを禁止する
- ゴミを拾いたいのに拾えない。ゴミが増えて自然を汚している
この問題、どう思います?
知床岬周辺のゴミ拾い運動「知床岬クリーン作戦」
知床半島に位置する羅臼町で「羅臼の宿 まるみ」を経営する湊(みなと)さんは、知床が世界自然遺産に指定される以前から個人で知床を清掃し、ゴミをなくす活動を約20年も続けています。
湊さんはこの活動を本格化するため2004年に「NPO法人しれとこラ・ウシ」を立ち上げ、「知床岬クリーン作戦」と称して知床半島の先端付近を清掃するビーチクリーン活動を実施。知床岬クリーン作戦は年に10回ほど夏のシーズンにほぼ毎週行われるゴミ拾い活動で、2016年の初回となる5月下旬には僕も参加してきました。
普段は誰も行くことができない知床岬ですが、この知床岬クリーン作戦には特別な許可が出ていまして、動力船での上陸が許可されています。とはいえ、今や人が住んでいない場所なのできちんとした港なんてありませんから、昔に整備されたごく限られた湾に停船するしかありません。
3年前のクリーン作戦で船を停めることができたアブラコ湾には今はもう停めることができなくなっていました。なぜならば、そのくらいたくさんのゴミが流れ着いてきて、とても船が入れる状態じゃなくなってしまったからです。本当に知床のゴミ問題は大変なんですよ。
なので、今回はわざわざ遠回りし、アブラコ湾よりも北側の文吉湾(ぶんきちわん)に船を着けることになりました。
以下、2016年5月29日に実施した「知床岬クリーン作戦」の様子のレポートになります。
文吉湾~知床岬周辺の地形
2016年5月29日、朝7時。ホエール・ウォッチングの際にも乗ったアルランIII世で知床半島の先端を目指します。
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靴についている微生物や種などを洗い流してから乗船。
現地の波の状況によっては上陸できずに引き返すこともあります。まだ元気がある僕。
午前9時頃、船で文吉湾(ぶんきちわん)に上陸した僕たち。
ここからまずは目の前にある丘を登り、自然を壊さないようになるべく崖のギリギリ端を歩きながら知床岬を目指します。小さな湾がいくつもある知床半島で、まずは往路で様子を見てから復路でゴミ拾いをする計画です。
行政は「上陸しても海岸沿いに歩き、陸地は歩くな」と言ってきています。そんなの無理!満潮時は歩けないし、干潮時でさえゴツゴツの岩の上を歩いて大変なのに、ましてやアップダウンの激しい岩場をゴミでパンパンに入った袋を持って戻ってくるのは不可能でしょ。。。ほんと、現地を歩いてみてから判断してほしいわ、と参加者の誰もが思ったことでしょう。湊さんも声を大にして「そんなの不可能だ、この現状を見てみろ」と言っています。事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ!というセリフはこんなときに使うんですね。
今回の知床岬クリーン作戦では陸地と歩けそうな海岸沿いを進みます。登ったり降りたり、歩きづらい岩場を転ばないように進み、ゴミを拾う前からかなり体力を消耗しているのを感じました。
やっぱり、大変だったのは海岸の岩場ですね。まるでインディ・ジョーンズの冒険のようなアドベンチャー気分を味わいながら、「一体、どこまでこんな足場の悪い地形を歩くんだろう」と弱気になってる僕。どこまでも続く草原を歩きながら、片側は断崖絶壁の海、もう片側は山。崖の下からはビュービューと強い風が吹き、大人でも吹き飛ばされそう場所をひたすら歩きます。
そう、知床岬の周辺では砂浜なんてほぼゼロです。特に今回歩いたすべての湾はゴツゴツの岩場やげんこつサイズの石がいっぱいで、厚底の長靴でも大変。そんな場所にたくさんのゴミが流れ着いています。
知床で見つかったゴミの特徴
上陸した文吉湾(ぶんきちわん)から知床岬まで歩き、そこから文吉湾へ戻りながらゴミを拾います。これまで上陸港として使用してきたアブラコ湾はひどく、ここを港として利用することはもはや無理な状況でした。
知床岬まで行ったあとはゴミ拾いをしながら戻ります。ゴミを拾っては歩き、拾っては歩きの繰り返し。短時間でゴミ袋がいっぱいになりました。重いゴミは持って帰れることができないので、その場に置いておきます。
ゴミが長い間あった場所は、植物が生えていません。
この日、ほんの数時間の作業でしたが参加した十数人で拾ったゴミの量は合計で102キログラム。これを羅臼町に戻ってから分別します。
重量でいうと漁業で使われる網が占めていますが、量としてはやはりペットボトルやプラスチックゴミが多いです。プラスチックゴミの量は48.5キログラムもありました。
日本国内から出たと思われるゴミもありますが、多いな~と思ったのが中国製品や韓国製品のゴミ。
例えば、こちらの青いタンクは韓国で養殖海苔に使われている溶剤の容器です。強酸性の液体が入っていることも。驚くことに、ある年には日本の沿岸でこれと同じタンクが3万個拾われたそうです。もはや、偶然捨てられたとは到底考えられないレベル。もちろん、一部の人だと思いますが、韓国漁業関係者の環境意識の低さに唖然としてしまいますね。。。
続いて、この水色のボール上のものは中国で使用されている「浮き」です。素材には有毒な鉛を含んでいて、使用している中国でも危険だし、流れ着いた知床にとっても有害です。この浮きは今も現地で使用されていることが確認済み。このままだと中国の海と知床の海岸がどんどん汚染されていきます。
逆にビックリしたのは知床から最も近いロシア製のゴミがほとんどないこと。ロシアから出るゴミがまったくないとは言えませんが、遠い韓国や中国のゴミがこれほど多く漂着している実態を目の当たりにすると、リアルに海を漂っている韓国・中国のゴミは想像をはるかに超える量なんだろうと思います。
【写真】知床の自然
世界自然遺産の知床には雄大な自然環境がたくさん残されています。そこには腰の高さまである草木が生え、見たこともないような花も咲いています。いつ、熊や鹿が出てきてもおかしくない環境。キタキツネは2度目撃しました。
撮影した知床の写真を掲載しておきますね。普段は観光できない場所ですし、少しでも知床の自然を知ってもらえたら嬉しいです!ほんと、素晴らしい環境でここが日本じゃないみたい。同時に、ここがこれからもプラスチックゴミをはじめとする海からの漂着ゴミで汚れていかないように、みなさんにもいろいろと感じてほしいという意味も込めてこれらの写真を見ていただければと思います。
「知床岬クリーン作戦」は申込めば一般の人も参加できる
さて、やや興奮気味の記事になってしまいましたが、「知床岬クリーン作戦」は事前に申込めば一般の人も参加できるとあって、一日中ゴミ拾いをするような内容ではありません。過酷な環境ですから、怪我したり、何かあってもすぐに帰れないので、ゆっくり安全に楽しくやろうという形になっています。
羅臼町の港から知床半島の先までは“超”がいくつ付いてもおかしくないほど波が荒い海域があり、船酔いする人はまず無理です。乗り物酔いをまったくしない僕でさえ、「こいつはヤバイ」と感じましたもん。
しかしながら、船での移動中に2~3頭のナガスクジラに遭遇したときには感激しました!
体調20メートル以上の大きなクジラです!ホエールウォッチングを船員さんでさえも「ナガスクジラは去年、1度しか見てない」と言っているほど。
また、帰りにもシャチに出会う事ができました!こちらは動画で。
珍しい体験ができたのも知床岬クリーン作戦に参加したからこそ。素晴らしいご褒美でした!
このように、楽しみながら環境問題に触れ、ゴミ拾いをして知床をキレイにできるのが知床岬クリーン作戦です。
世界自然遺産の知床に行ってみたいという興味のある人にゴミ拾いをしてもらって、楽しみながらこの地をキレイにしていけるからこそ無理なく毎年続いているんだろうな~と思いました。難しくても続けるしかありません。すごく楽しんで作戦を遂行することができましたので、知床の環境保護に協力したい人はぜひ知床岬クリーン作戦に参加してみてください。
2016年は5月29日を皮切りに毎週日曜日、合計10回実施されます。アクセスは良くありませんが、知床の自然を見ることができるチャンスでもあるので、きっと価値のある体験ができますよ!知床・羅臼町へのアクセスは「根室中標津空港」から車で約1時間15分です。
【知床岬クリーン作戦 実施日】
5月29日(日)、6月5日(日)、6月12日(日)、6月19日(日)、6月26日(日)、7月3日(日)、7月10日(日)、7月17日(日)、7月24日(日)、7月31日(日)
お問い合わせ先:0153-88-1313
(NPO法人しれとこラ・ウシ 事務局:「羅臼の宿 まるみ」)
→ NPO法人しれとこラ・ウシの活動内容(知床岬クリーン作戦 実施日)
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